JUFA 全日本大学サッカー連盟

デンソーカップ
公益財団法人日本サッカー協会技術委員会副委員長の山本昌邦氏を迎えて、講演会を開催
2017/03/09
 『第31回 デンソーカップチャレンジサッカー 刈谷大会』の開幕前日となる16日に、全選手参加の講演会が行われました。

 講演会のテーマは『人の心をつかむ人材育成術』。講師として壇上に上がったのは、公益財団法人日本サッカー協会技術委員会副委員長の山本昌邦氏です。山本氏はジュビロ磐田のヘッドコーチを経て、1998年には日本代表のコーチに就任。『2002 FIFAワールドカップ 韓国/日本』で日本代表のベスト16進出に貢献すると、その後は五輪代表監督に就任し、『第24回オリンピック競技大会(2004/アテネ)』への出場をはたしました。

 講演会で山本氏は会場の選手たちに質問をしながら、まず『2014 FIFAワールドカップ ブラジル』の決勝戦について振り返りました。決勝点を決めたドイツ代表のゲッツェ選手と、それをアシストしたシュールレ選手は、ベンチスタートの選手。しかし延長戦の113分にチームを救う活躍をします。山本氏は言います。

 「代表選手が、90分でいいプレーをするのは当たり前のこと。(ワールドカップの決勝戦にあたる)7試合目の113分に何ができるかが重要です。ドイツ代表は一体感があったからこそ、最後の最後にベンチに座っていた、若手のふたりがチームを救うことができた。その状況で、彼らが最後まで諦めないていないかどうか。そこでチームの一体感が問われるのです」

 また山本氏は、これまで日本代表や五輪代表チームをサポートしてきた立場から、一流のサッカー選手たちがどのように成長してきたのか、その一例を紹介。一流選手になるために必要なものは何なのか、そして彼らに共通するある“才能”について語りました。

 たとえば長友佑都選手(インテル)は東福岡高校から明治大学に進学したけれど、1年次には試合に出られずスタンドで応援する側にいました。本田圭佑選手(ACミラン)はガンバ大阪のジュニアユースからユースに昇格できず、星稜高校に進学。同じように、中村俊輔選手(ジュビロ磐田)も横浜F・マリノスのジュニアユースからユースに昇格できず、桐光学園高に進学しました。当時、彼らより上手いといわれていた選手もたくさんいましたが、現在、長友選手や本田選手、中村選手のように活躍している選手はほとんどいません。山本氏はその差について、「プロは“努力する才能”がない人には難しい世界。諦めなかった人が最後に強い」と断言します。

 3大会連続でワールドカップに出場し、セリエAで活躍した中田英寿氏は、山本氏が出会った15歳のときからイタリア語の本を読んでいたそうです。その理由を問うと「いつかセリエでプレーするから」と答えたとか。その言葉どおりセリエAでのプレーを実現させた中田氏を、山本氏は「ヒデ(中田氏)はコツコツと努力する天才」と評しました。U-17代表当時、「技術的にはチームのいちばん下の選手だった」けれど「大事な時に点をとるのは必ずヒデ」。コツコツと努力して最後まで諦めず「チームを救える人こそがスーパースター。ヒデはそういう選手」と語りました。

 「技術も戦術も体力も大事な要素ですが、最後に諦めない気持ちが大切です。プロは上手い人が勝てる世界ではない。自信のある人が勝つ。それは、最後の1秒になっても、自分は絶対に仕事をしてみせる、という自信です。そういう人しか活躍できません」

 山本氏はその例としてもうひとり、中山雅史選手(アスルクラロ沼津)の名前を挙げました。

 日本代表が2002年のワールドカップに向けてヨーロッパで強化合宿をしていた時、当時のフィリップ・トルシエ代表監督がコーチだった山本氏にこんなことを告げたそうです。

「このチームには戦う魂、姿勢が全然足りていない」

 それを聞いた山本氏は即座に「中山がいる!」と答えたといいます。
 中山選手は当時、年齢的な衰えもあって1年以上も代表の候補から外れていました。しかし連絡すると「ずっと山本さんからの電話を待っていましたよ」と、代表を諦めていない気持ちを露わにしたそうです。そんな中山選手に対し、山本氏は「とにかく、試合で点を取ってアピールしろ」と言い、その言葉どおりに最後の最後まで諦めずに活躍をし続けた中山選手は、ついに2002年ワールドカップの日本代表入りを果たしたのです。

 中山選手は出場時間こそ短かったものの、ベンチであるいはアップスペースでチームを鼓舞し、最後まで“諦めない気持ち”を表現し、チームメイトを支え続けました。

「目に見えることは簡単なんです。データに全部表れているから。代表や五輪の選手であればストレスチェックをしていて、ストレスや疲れは全部データになっている。1試合ごとのパフォーマンスも全部わかっているんです。それよりも大切なのは、目に見えない心をどうマネージメントできるかです。それこそがチームに問われている部分だし、リーダーに問われているし、監督に問われていることなのです」

 山本氏はさらに、自身の考えるリーダー論についても紹介。これまで山本氏が接してきた、いわゆる“カリスマリーダー”たちは、皆例外なく「選手の感情を揺さぶるのがうまい。選手の心に火を付けて、彼らのもつ力を最大限に呼び覚ます」そうです。それだけにリーダーの立場になったときには、「感情に基づかないマネージメントは、絵に描いた餅にすぎない」と語ります。


「選手たちには、勝ちたいと思う気持ち、諦めないことが大事だと伝えています。そして自分のしてきたことに満足せず、自分に期待してくれる人々を、がっかりさせないように、と。大切なのは勝つことではなく、挑戦し続けることです。そのためには、失敗を恐れなくてもいい。敗れたときにはチャンピオンのように堂々と負けてもいい。ただ、敗れた試合で自分はどうすればよかったのかにフォーカスし、考えることが大切。それが選手の成長につながります」

 ときには壇上から降りて直接声をかけるなど、選手たちと積極的にコミュニケーションをとっていた山本氏。「ここにいる選手全員には、間違いなくチャンスがあるし、とんでもない可能性が転がっている」と声をかけながらも、「その可能性は、残念ながら努力した人間の前にしか転がってこない」との言葉も忘れません。技術ではなく、努力し続けること。そして最後まで諦めず、挑戦し続けることこそが、一流の選手に共通する“才能”だと伝え続けました。

 選手たちは最後までその話術に引き込まれつつ、数々の代表選手の成長を見守ってきた山本氏の言葉に深く納得していました。