ユニバーシアード代表は、第29回ユニバーシアード競技大会(2017/台北)に向け、国内最後の合宿を8月7日(月)から10日(木)まで行いました。
7月14日(金)~16日(日)に行われた前回の合宿は、3日連続でトレーニングマッチを行うなど、「どちらかといえばサッカーに寄った内容」(宮崎純一・ユニバーシアード代表監督)でしたが、今合宿はチームづくりの強化、選手個々のメンタル面の強化、そして“日本代表”として戦うことを主眼に置いた内容となりました。
合宿初日の7日には、ASE(Action Socialization Experience:社会性を育成するための活動体験)という野外のキャンプ活動を実施しました。選手たちは協力しあい、コミュニケーションをとりながら、さまざまなゲームやプログラムをこなし、与えられた課題をクリア。大会に向けてチームの団結力と、状況判断力を磨きました。
8日は、『いわきFCフィールド』にてトレーニングを行いました。午前中から午後にかけては、全日本大学サッカー連盟医事委員会・トレーナー部会長の内田靖之先生(関西学院大学アスレティックトレーナー)を中心に、志子田正人先生(東北学院大学アスレティックトレーナー)、佐保泰明(流通経済大学アスレティックトレーナー)、ならびにいわきFCパークトレーニングセンターのご協力をいただき、フィジカル測定を実施。ユニバーシアード代表は順天堂大学から測定機材の貸し出しの協力を得て、継続的に選手のフィジカル能力を測定しています。この合宿では、光電管を利用した50m走測定(10m、20m、30m、50m)、シャトルラン、バウンディング、ジャンプ等の種目測定を実施しました。
午後のトレーニング前には、2009年・ベオグラード大会のユニバーシアード代表監督である吉村雅文先生(順天堂大学)からのお話がありました。吉村先生は大会に臨む心構えとして「1.準備、2.チームワーク、3.ラーニング・ピラミッド」について説明。「選ばれたい選手から、選ばれた選手」への気持ちの切り替え、すなわち日本代表の責任と誇りを持つことや、あらゆる準備を怠らないことなど、本大会に向けての大切な心構えを選手たちに伝えてくださいました。
また夜には、“日本代表応援隊”のツン隊長による講演が行われました。講演では、ツンさんが熊本地震、ネパール地震の被災地、そして現在合宿をしている福島の現状を紹介。また、ドキュメンタリー映画『MARCH』も上映されました。この映画は、2011年3月11日に発生した福島第一原発事故で活動の継続が困難になりながらも、活動を再開し、全国大会出場をはたした福島県南相馬市のマーチングバンド『Seeds+(シーズプラス)』を描いたものです。厳しい状況に屈することなく活動を続ける『Seeds+』の姿に、選手たちも考えさせられた様子でした。
■ドキュメンタリー映画『MARCH』
http://seedsplus.main.jp/
9日の午前中は『いわきFCのフィールド』にて、いわきFCと20分×3本のトレーニングマッチを実施。奇しくも、72年前の長崎原爆投下と同日同時刻にキックオフを迎えたことから、キックオフ前に両チームの選手・スタッフ、そしてトレーニングマッチを見にこられたいわきFCサポーターの方も、全員が犠牲者に黙祷を捧げました。試合は3-0でユニバーシアード代表が快勝。試合の結果は、以下のページをご覧ください。
■【結果】『ユニバーシアード男子サッカー日本代表 直前合宿』 TM(vsいわきFC)
http://www.jufa.jp/news/news.php?kn=667
午後にはツンさんの案内で、福島第一原発事故後は“前線拠点”として使用されていた、『Jヴィレッジ』を見学しました。作業員等の立ち寄り場所として稼働していた時期は、ピッチの芝がはがされ、駐車場やプレハブ施設などが建設されるなど“日本サッカー界初のナショナルトレーニングセンター”として、多くの代表選手が訪れていたころの面影はありませんでした。なかには、日本クラブユースサッカー選手権や全日本少年サッカー大会でJヴィレッジを訪れた選手もおり、当時と現在の違い、そして事故直後の様子などを、神妙な面持ちで聞き入っていました。
Jヴィレッジの全景を見学したあとは、全選手でロビーにある“蹴球神社”でユニバーシアード優勝、世界一を祈願。主将・重廣卓也選手が「優勝するぞ」と声をかけると、ほかの選手もそれに続きました。
Jヴィレッジを後にした選手たちは、福島県・南相馬市出身の日本代表専属シェフ・西芳照さんが腕を振るうお店『くっちぃーな』に。代表の活躍を“食”で支えてきた西シェフからの激励の言葉に対し、東北出身の菊池流帆選手が“世界一”を目指す所信表明をして、西シェフの激励に応えました。
その後は富岡町をはじめ、今もまだ“帰宅困難地域”となっている一帯をバス内から見学しました。6年の間に朽ちた店舗、今もまだバリケードが解除されていない民家を前に「ぜひスマホで写真をとって、この状況を覚えておいてほしい。そして風化させないでほしい」というツンさんの言葉に、車内からはシャッター音が響きました。
被災地の見学を終えたあとは、再び『いわきFCのフィールド』に戻り、ユニバーシアード代表の壮行会が行われました。華やかな曲と演技でユニバーシアード代表にエールを送ってくれたのは、映画『MARCH』に出演した、マーチングバンド『Seeds+』の皆さん。いわきFCの選手の皆さんも参加してくださいました。壮行会のあとは、『Seeds+』、いわきFCの選手をまじえての懇親会に。緊張気味の『Seeds+』のメンバーに声をかける選手、大学サッカー出身のいわきFCの選手と旧交を温める選手など、思い思いの形でそれぞれが懇親会を楽しんでいました。
懇親会の最後には、重廣主将が改めて、ここ福島から世界一を目指すことを宣言し、『Seeds+』のメンバー、そして合宿中協力してくださったいわきFCの皆さんの想いに応えました。
最終日となる10日は、午前中にトレーニングを行い、午後には東京へ戻り解散し、国内最終合宿は終了しました。
国内最終合宿としては「サッカーの部分が少ないプログラム」と宮崎監督。しかし被災地である福島県で国内最終合宿を行い、現状を学んだことが「彼らにどれくらい響くか。それをきっちり受け止めた時、日の丸を背負うことの責任感をもって、大会に臨んでくれるのではないかと期待している」とも。さまざまな思いを胸に、選手たちは台湾へと向かいます。
《選手コメント》
■3.菊池流帆(DF・大阪体育大学・3年)
チームはとてもいい雰囲気でやれていると思います。この合宿にはサッカーだけではない、チームが一致団結するために必要な取り組みがあったと捉えています。自分も東北出身(岩手県釜石市)出身なのである程度想像はしていたのですが、富岡町を見に行って、原発(事故)があるとないとでは大きく違うというのは感じたし、いろいろと思うこともありました。チームとしては世界一を目指しているし、その中で自分が活躍すれば、(出身地である)岩手県釜石市も有名になる。がんばりたいと思います。
■8.重廣卓也(MF・阪南大学・4年)
個人的には大会直前に怪我をしてしまい、まだ復帰して1週間くらい。チームメイトがコンディションを整えている中、なかなかコンディションが上がらず、自分だけ遅れているというのは練習から感じています。
ただ、今はみんなが各々の立場で危機感や責任感を感じ、金メダルに向けて、今できることを一生懸命にやっています。選手全員に温度差がない、いい雰囲気の中でこの合宿を迎えられていると思います
■18.戸嶋祥郎(MF・筑波大学・4年)
ユニバーシアード代表に入れるとは思っていなかったのですが、怪我人が多かったのでいつ声がかかってもいいよう、準備はしていました。ただ、ほかにもバックアップの選手もいましたし、まさか自分が選ばれるとは思っていませんでした。けれど選ばれたからには、しっかりとがんばりたいと思います。
前回の合宿で、自分がどういう選手かという部分はアピールできていたと思います。今日の試合もそうですが、主に運動量という自分の特徴をいかしてチームをサポートしたり、チームの駒になれるようにやっていきたい。僕はこのチームの中で、フィジカル、テクニカル、すべて上のほうのレベルではないと思っています。だから簡単にやれるところは簡単にやり、ワンタッチでシュートをうったり、スルーパスを出したりして、最後に自分が活きるようなプレーをしたいです。