8月29日(火)、チケットが完売となる満員の観客の中、『第29回ユニバーシアード競技大会(2017/台北)』の決勝戦が行われた。
3大会ぶり6度目の優勝を狙う日本の対戦相手は、前々回優勝国・フランス。これまでの対戦成績は5勝1敗と相性がよい相手で、これが3大会連続の対戦となる。
当日朝に地元メディアが、日本代表が選手村の向かいにある公園を自主的に掃除する姿を報道。そのことからこの試合に興味をもった人もいたようで、会場はどちらかといえば日本を応援するムードに包まれていた。「歓声が大きすぎて、(指示の)声が通らず苦労した」(坂圭祐)との戸惑いもあったが、ファーストラウンドで2戦を戦っている会場だけに、"ホーム"感覚で決勝戦を迎えることができた。
この大会では一貫性してターンオーバー制で臨む日本は、決勝戦も準決勝のメキシコ戦からスタートメンバーを9人変更して試合に臨んだ。最初にチャンスを掴んだのは日本。開始早々の5分、守田英正からのボールを受けた重廣卓也が、ゴール前に抜け出したジャーメイン良にスルーパス。ジャーメインのシュートは枠の外に外れるが、日本はこのプレーで日本は攻撃のリズムをつかむ。その後も名古のサイドからの仕掛けや、旗手怜央の前線への抜け出しなどでチャンスを作る日本。しかしフランスも、中盤での厳しいプレスと両サイドを起点に攻撃を展開し、簡単には主導権を握らせない。
17分にはセットプレーからのこぼれ球をフランスに蹴り込まれるが、これはGK永石拓海がファインセーブ。その後も何度かピンチを迎えるが、坂・菊池流帆のセンターバックとGK永石の好守によりゴールを割らせない。逆に22分には、こぼれ球を拾った名古がダイレクトシュートを放つなど、双方に立て付けにチャンスが訪れる、ペースの早い展開となった。
拮抗した試合を動かしたのは日本だった。27分、センターバックの菊池はドリブルで攻め上がると、いったん右サイドバックの岩武克弥にボールを預ける。岩武が軽くはたいたボールを、縦に走り込んだ戸嶋祥郎がキープ。そのまま右サイドをえぐると、マイナス気味のグラウンダーのパスをペナルティーエリアへ。これを、ゴール前中央に待ち構えていたジャーメインが突き刺して、日本が先制する。
「ほとんどサチ(戸嶋)のゴールのようなものだけど、あそこで動かずに待っていたのがよかった」(ジャーメイン)
日本は37分、コーナーキックの展開からフランスにこぼれ球を詰められるが、これはオフサイドの判定でノーゴールに。ヒヤリとした展開になったが、日本も半終了間際の44分には反撃。岩武のスローインを守田がつなぎ、最後は名古がドリブル突破からシュートを放つなどのチャンスを作る。しかし追加点を奪うことなく、1-0で試合を折り返した。
日本はハーフタイムにFWの旗手に代えて脇坂泰斗を投入し、左サイドの名古を前線へと上げて追加点を狙った。だが試合は次第にフランスが押し込む展開となる。後半の立ち上がりにはジャーメインや名古の突破からチャンスを得ていた日本だが、フランスの左右両サイドを大きく使った展開に苦戦する。
厳しい状況に、ベンチが動いた。68分にはジャーメインに代えて中野誠也、71分には名古に代えてボランチの柴戸海を投入。前線を中野の1トップとし、攻撃は中野のスピードを活かして裏をとる形を明確にする一方、中盤にボランチの柴戸を入れることで、中盤での相手の動きを封じる動きに出た。
この交代で落ちつきを取り戻した日本は、左サイドの脇坂と中野のコンビからゴール前に攻め込むシーンも。守備ではフランスにチャンスを作られるものの、守備陣が冷静に対応する。同点の追いつきたいフランスは終盤、センターバックを前線に上げるパワープレーに出るが、日本もすかさず長身のセンターバック・宮大樹を投入。5バックにしてフランスの攻撃に応じると、1点差を守りきってタイムアップの瞬間を迎えた。
この結果、6度目となる優勝を手にした日本。2011年の深セン大会以来6年ぶりとなる"世界一"の座に輝いた。チームの中で唯一前回・光州大会に出場している主将の重廣は、金メダルを授与されたあと、しげしげとそのメダルを見つめた。「前回は銅メダルだったので、自分の手元に金メダルがあるということに感動したというか、びっくりして」とその瞬間を振り返り、長く遠ざかっていた金の輝きが再び日本にもたらされたことを喜んだ。
「ターンオーバーでも、全員がほぼ同じようなパフォーマンスが発揮できた」(宮崎純一監督)というように、初戦から決勝戦まで安定した力を発揮した日本。決勝戦は苦戦する時間帯も少なくなかったが、それでも勝ち切ることで、世界王者の実力を証明した。
【監督、選手コメント】
■宮崎純一監督
これまでは多く得点を重ねて、アタックを重視してきました。しかし今日の試合のようにそこをできない時間帯も、FWの選手が戻って守れるし、ボールを取られた選手が戻ってボールを取り返すことができる。そういったところに象徴される、高いインテンシティーから試合ができたことが、勝因のひとつだと思っています。
拮抗した試合が多くなるというのがこの大会の特徴なので、しっかり守りきるか、得点をたくさんとるかどちらかの選択になるかと思います。このチームについてはしっかりとした技術をもち、インテンシティーで攻守を切り替えられ、そのうえでアタックの要素がある選手を重視して選んできたつもりです。今回ほぼターンオーバーで、1試合ごとにメンバーを変えて戦いましたが、それでも全員が同じようなパフォーマンスが発揮できたと思っています。坂や戸嶋のように最後に選ばれた選手も、立ち上げからのメンバーと変わらないどころか、それを追い越すようなプレーをしてくれました。坂については、今日のプレーに象徴されるような対人の強さでチームに貢献してくれました。戸嶋については、正直、今日の(アシストのような)プレーまでは期待していなかったのです(笑)。彼に求めていたのは、地道に守り、組み立てに参加し、最後に(ゴール前に)顔を出してくれる、というところ。けれど、今日のように彼が仕掛けてチャンスを作ったということは、彼がプレーヤーとして、この大会の中で成長したことだと思います。
選手がこの90分間を集中して戦い抜いてくれたとことは、彼らを褒めて褒めて褒めまくっても足りないくらい。僕たちスタッフが何も言わなくても彼ら自身でサッカープレーヤーとして一番大事な要素を考え、判断して自主的に動いてくれた。そういう要素をもった選手たちで構成された、素晴らしいチームだったと思います。
■重廣卓也(阪南大・MF・4年)
決勝という舞台で先制したことで、リスクを回避するあまりミスを連発してしまいました。結果、相手の流れになってしまっていたので、シンプルに相手の背後、ジャーメインや(中野)誠也の背後を使おうという狙いに切り替えました。
守備面ではファーストディフェンダー、今日であれば坂が思い切って相手に立ち向かってくれたシーンが多く、そこに小池や岩武がカバーしたことで、いつもよいしっかり守りきることができたと思います。
前回は銅メダルだったので、今回は絶対に金をとりたいという気持ちは強かった。けれど本当に金メダルを手にした瞬間、感動したというかびっくりしてしまったというか。本当に金メダルを取れたんだ、世界一になれたんだ、と思いました。自分はチームにも迷惑をかけたし、支えられてきたキャプテンです。そして大学で育った選手なので、大学に何かを残したかった。金メダルをとれたことで何かを残せてほっとしています。
■永石拓海(福岡大・GK・4年)
今日の試合はロースコアになるだろうと、皆で話していました。なかなか点が入らない時間帯があったし、攻め込まれる時間もありました。ただ、相手の高さにしっかり対応できていたので、1点を守りきれたのかな、と思います。ハイボールに対しては自分が積極的にチャレンジしたし、(菊池)流帆と坂もしっかり競ってくれた。そこはお互いにいいプレーができたと思います。前半には危ないシーンもあったのですが、そこで失点せず冷静に対応できたし、ハーフタイムに背中を叩いて押し出してもらえたので、後半も自信をもってプレーができました。
日の丸を背負って戦うのは貴重な経験です。自分は来年、Jリーグで戦っていかなければならないけれど、それとはまた違う緊迫感のある環境の中でやれました。だからこそ、自分も含めチームとしても大きく成長できたのではないかと思います。
■ジャーメイン良(流通経済大・FW・4年)
今日の自分はもってました(笑)。(なかなかボールが前に入りにくい展開だったので)試合中はずっと(旗手)怜央と「我慢しような」と話をしていました。どちらが点を取ればいい。たまたまそれが自分だったというだけです。ゴールは、自分が真ん中にいて当てるだけ。ほぼ(戸嶋)祥郎のゴールだったと思います。ただ、あそこで我慢して、自分を動かさず真ん中にいたことがよかったと思います。
ただ、ヤス(脇坂泰斗)が4得点で得点ランキングのトップにいたので、試合前にはどちらかが決めよう、という話はしていました。ボランチに得点王をとらせるのはどうだろうと(笑)。
自分は途中で交代してベンチで試合を見ていたのですが、みんなががんばってくれたのは感動したし、金メダルをもらったことは本当にうれしかったです。国際大会で日の丸を背負う経験はそうはない。大学にきてユニバーシアードという大会に参加したことは、自分の中で間違いなくプラスになると思います。
■名古新太郎(順天堂大・MF・3年)
世界大会に参加するのは初めてですし、世界の舞台でやれたということは、自分にとってひとつの大きな経験となりました。この大会では主に左サイドでプレーしていたので、積極的に仕掛けていくという気持ちはずっともっていました。決勝戦で、それが出せたのはよかったと思います。やっぱり前でプレーするのは楽しかったし、自分の持ち味は前で活きる部分があると、改めて思いました。
この大会では日本では経験のできないプレスの速さや、フィジカルの強さを感じて、改めて世界に通用する自分の武器を伸ばしていきたいと思いました。ドリブルの部分は自信をもっていますが、やはり結果も出さないといけない。今大会は1得点だけでしたが、もっと最後の部分の精度をあげていかなければと思いました。そこは反省点です。
今日も惜しいシーンがありました。気持ちが前に前にと出すぎてしまい、つまずいてしまった。あそこをしっかり決める選手にならないと上にはいけないと思います。ユニバーシアードに優勝はしましたが、ここはあくまで通過点。もっともっと上を目指して、ひとつふたつ上のレベルでやるためにはこだわりが必要だと思います。
■坂圭祐(順天堂大・DF・4年)
後半、ほぼ防戦一方の時間帯もありましたが、うまくみんなと声をかけあいながら守れました。観客の声援で声が通らないときも会ったのですが、特に(センターバックでコンビを組む、菊池)流帆とはよくしゃべりながらやったので、それが無失点につながったと思います。
最初のヘディングのときに、あまり相手が競ってこなかったので、「これは大丈夫だ」と思いました。自分自身もうまくジャンプもできていたし、試合前からアドレナリンが出ていて(笑)。「今日は飛べる日だな」と思っていました。試合が終わったあと、(チームメイトに)「最後のところで跳ね返してくれて感動した」と言われたのですが、そういう部分こそ自分がやらなければならないと、と思っていたところ。それが決勝戦で出てよかったと思います。
優勝はうれしいですし、自分は最後の最後に選んでもらった選手なので、選んでくれた宮崎監督に感謝したいです。
【試合結果詳細】
http://www.jufa.jp/news/news.php?kn=681
【フォトレポート】
○決勝戦
https://goo.gl/photos/bkgdjQYrwycoodst8
○表彰式
https://goo.gl/photos/9iUSkKTM7GjJKmqTA